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松舞町ラブストーリー
山陰の仮想の町松舞町を舞台にした、様々な恋愛を見守ってやって下さいね。
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sweet jelly beans
「あれっ、洋君? 今、帰り?」
「いや、丁度タバコが切れたし、明日の朝の食パンが無くなってたからさ、ダイエーに行くところ。そろそろ日向が帰ってくる頃だろうと思って、改札で少し待ってたんだ」
「そっか、ありがとう。じゃあ一緒に行こうか」
傘用ビニールに入れた折りたたみ傘を、トートバッグの奥に仕舞い込み、傘をさす洋君の右腕にしがみつく。
私達、神戸に引っ越ししましたよ。
こんばんわ、日向です。
―――――――――5月13日(金)―――――――――
駅を出ると外は相変わらず土砂降りです。
「よく降るわよね。」
「明日も降るって、さっきニュースで言ってたぞ」
「ホント? まぁ明日は休みだから良いけどね。雨の日の出勤って憂鬱だよね」
「まぁでも、ここの電車なら寿司詰めって事ないから、まだ良いよな。雨の日の都心は最悪だったぞマジで。」
「それはそうかもだけど、三宮まで出る電車賃が高いよね。それでどうだった今日の面接?」
「う~ん、どうなんだろ? 事務所の雰囲気からすると、年齢的に難しいかもな」

そうなんです、洋君は去年の12月に会社が倒産してしまい、大阪赴任時代の繋がりで神戸の会社に入ったんです。
でも、震災の影響で業績が悪化し、リストラされてしまい、今は求職中の身なんです。

私の方は、美結ちゃんも今年から小学校だし、真子ちゃんが居るから、もう心配する事も有りませんので、松舞に留まる理由が無くなりました。
だから無理を言って松舞保育所を退職し、園長先生の御好意で紹介して頂いた市内の私立保育所に勤めています。

両親には建前上一人暮らしって事になってますが、実は洋君と一緒に暮らしてます。
洋君が神戸に引っ越す時、今後の事を考えて少し無理をして1LKの部屋を借りてくれました。
不安定な生活状況ですが、二人にとって大きな一歩を踏み出した事に満足しています。


「洋君、今夜のおかずはもう決まってるの?」
「おう、今夜は野菜の掻き揚げ天丼・・・まぁ、横着して掻き揚げは出来合い物だけどな。」
取りあえず就職が決まるまで、家事の一切がっさいは洋君の担当です。
4年近い転勤生活で身に付けたスキルを遺憾無く発揮してもらってます(笑)
「全然平気だよ。ラーニングコストを考えたら、総菜物の方が安い物だってあるしね」
「その分、天つゆはこだわりの味に仕上がったぞ。」
「いつも、ありがとうね。そうだ、折角だから何かデザート買って帰ろうか」
「いいねぇ、何かコーヒーに合う物がいいなぁ」
「う~ん、じゃあケーキかビスケット辺り?」
「そうだな、チョコパイとかどうだ?」
「洋君、好きだよねチョコパイ」
「おう、味はもちろんだけど腹も膨れるし、デザートとしては最高だな」

「だったら箱菓子のコーナーだね。・・・ねぇ、これ懐かしくない?」
「有ったね~昔。子供の頃、良く食べたわぁ・・・名前、何って言うんだっけ?」
「ジェリービーンズよジェリービーンズ。ほらマッキーの24Super Marketの歌詞にも出てくるでしょ。」
「ああ、『気の早い君が開けたジェリービーンズの大きな袋』って奴だな」
「そうそう。久しぶりに食べてみない?」
「でも、色はカラフルだけど味は同じだよな。」
「え~っ、そんな事ないよぉ。色んな味がするはずよ」
「嘘だぁ」
「それ何か別のお菓子と混同してない? やっぱ、試しに買ってみよ」そう言いながら私はショッピングカートにジェリービーンズの袋を押し込んだ。


「ご馳走さまでした」手を合わせ二人で合唱する。
「明日休みだし、私が洗い物しようか洋君」
「いやイイよ日向。折角なんだからゆっくりしとき。」
「でも、一人でテレビ見てても退屈だし・・・じゃあ、食器拭きと収納手伝うね」
「じゃあ、そうしてもらおうかな」

二人で取りとめのない会話をしながら、洗い物をする。
洋君が洗った食器を手渡しで受け取り、布巾で拭き上げ棚にしまう。
当たり前の行動だけど、私にはどれも新鮮に感じてしまう。
「やっぱ二人で片付けすると早いな・・・じゃあ俺はコーヒーの準備するわ」
「うん。あっ、そう言えばジェリービーンズ、どれかの容器に移そうか」
「あっ、良い容器が有るぞ。東京にいた時、お客さんの海外旅行土産にもらったキャンディの容器がそのまま残ってるぞ。」
そう言うと洋君は、食器棚の奥から透明なキャニスタ―を取り出した。
「ガラスのは良く見るけど、これプラスチックなんだよな。軽いし扱い易そうだから取っておいたんだよな。」
私は、キャニスタ―の蓋をあけ、ジェリービーンズを流し込む。
軽快な音と共に、カラフルなジェリービーンズでキャニスタ―が満たされていく。

SH3G0408.jpgキッチンのブラインドの所に置いて有る、バジルの鉢植えをちょっと横にずらし、そこにキャニスタ―を並べてみる。
「見て見て洋君、すごく可愛くない?これ。」
「お~確かに確かに。」
これでまたキッチンが少し華やかになりました。
キャニスタ―のストッパーを外し、ジェリービーンズを2個摘み出す。
一個を口に頬張りながら、もう一個を洋君の口元に差し出す。
ドリッパ―にお湯を注いでいる洋君は、そのままパクッとジェリービーンズを頬張った。

「ちょっとぉ、私の指まで食べないでよね。」そう笑うと、洋君も「悪りい悪りい」と言いながらほほ笑んだ。
まだ始まったばかりで、どことなくギコチナイ二人の生活だけど、きっと上手くやっていける・・・そんな気がした瞬間だった。



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