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松舞町ラブストーリー
山陰の仮想の町松舞町を舞台にした、様々な恋愛を見守ってやって下さいね。
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「あれから」そして「これから」
「キャ~かなかな~」
そう言いながら、フルートと譜面を持った朝川が駆け寄ってきた。
「臨月なのに大丈夫なの?」
そう言いながら、朝川はヒグラシのはち切れそうなお腹を優しく撫でている。
「うん、別に激しい運動する訳じゃないし、お医者さんにも少し動いた方が良いって言われてるの」
確かに、お腹の子供は出産予定日を5日も過ぎていた。

ついに俺も親父になります。
こんばんは、モリヒデこと森山英雄です。
―――――――――12月23日(火)―――――――――
今日は、朝川が在籍している松舞町民アンサンブルのクリスマスコンサートを聴くために、ヒグラシと松舞文化ホールに来ています。
「なあ朝川さん、今日、颯太は?」
「芦川君ね、残業になったってさっきメールが来たの」
少し、寂しそうに口を尖らす朝川が、妙に可愛かった。
「ったく、颯太の奴は相変わらずだなぁ」
「でも、さすがノルマ達成記録更新中のエリートサラリーマンよね。毎晩、ビール飲んでゲームやってる人とは違うわ」
「ん?誰の事だよヒグラシ!」
「ふふっ、二人とも相変わらず仲が良いわよね。じゃあ、クリスマスコンサート楽しんでいってね」そう言いながら朝川は、楽団メンバーの集団に消えていった。

入れ替わりで今度は、楓と健吾が集団から抜けてきた。
「佳奈江さん、来て下さってたんですね。」
「うん、折角のクリスマスコンサートだからね、胎教にもなるし。」
「ヒデ兄、結局名前決まりました?」
「いんや、それが未だだに。男か女かも分らんし悩んじょうに。」
「お兄ちゃん、慌ててキラキラネーム付けんでよ。」
「折角だから、黄熊で『ぷー』とか、世界的鼠で『ミッキー』とか、考えてるんだが。」
「うわっ、それ将来絶対にグレますよヒデ兄」笑いながら健吾が、時計を見た。
「楓、そろそろチューニングせんといけん時間だわ、じゃあ佳奈江さんヒデ兄ごゆっくり」
「じゃあ、佳奈江さんお大事に。お兄ちゃんは、イビキかかんでよ。」
「俺、寝る事前提なんかよ!」
二人は、小走りで楽屋の方に消えていった。

「そろそろ、私たちも席に着こうかモリヒデ」
「そうだな」そう言いながら、俺はヒグラシの目の前に手を差し出した。
ヒグラシが少し微笑んで、俺の手を軽く握り締めた。

・・・・・・・
・・・・・!?
俺は、割れんばかりのカーテンコールで目が覚めた。
「・・・あれっ?コンサートは?」
「本当に寝てしまうんだから、信じられないわ」ヒグラシが少し呆れた顔しています。
「仕方ないだろう、こっちは年末の稼ぎ時で毎晩残業なんだから。」
「残業って言ったって7時には帰ってくるじゃないの。その後のゲームで寝不足なんでしょモリヒデは!あっ、ほらアンコール始まるよ」
俺は、背筋を伸ばして座り直した。

ドラムのカウントから、スローなバラードが始まった。
マジかよ、こんなの聴いたら、また寝てしまうだろうが。
不意にヒグラシが、俺の手を握りしめた。
「この曲、覚えてるモリヒデ?」そう耳元で囁いく。
・・・そう言われてみれば、聞き覚えの有るスタンダードナンバーだった。

朝川が、学園祭でやった曲?
そうあれは、確か高校1年の時だったかな。
他の女子生徒が教えてくれた。
あれ?あの子の名前、何だったっけ?

渡り廊下を渡っている時、4階からブラスバンドの演奏が聞こえてきた。
「朝ちゃん、頑張ってるね~」
「そうだな・・・あれ?この曲聞いた事有る・・・何て曲だっけ?」俺は上を見ながらヒグラシに聞いた。
「あ~確かに聞いた事有る・・・ジャズだよね、これ?」
「グレン・ミラーの、ムーンライト・セレナーデですよ。」その子が、少し恥ずかしそうに呟いた。
「そう、ムーンライト・セレナーデ! この曲、いい曲だよね」

有ったなぁ、そんな事。
あれっ?でもマジで名前が思い出せないや。
しかも、あの子ってそれ以外記憶が無いんだよな。

などと考えていると、ヒグラシがより一層俺の手を握り締めた。
「なんだよヒグラシ、俺はちゃんと起きてるぞ」そう言いながらチラッと横目でヒグラシを見ると、少し苦しそうな表情をしている。
「おい・・大丈夫かヒグラシ」
「つ・・・遂に始まったかも陣痛・・・」
「マジか。」
「うん、未だすぐに生まれるって感じじゃないけどね、ここ出たら病院直行パターンね。」
「と、取りあえず会場出ようか。」
「う、うん・・・そうしてもらうと助かるかも・・・」

俺は、一旦会場の方に眼をやる。
朝川や楓は、何となくヒグラシの表情に気がついたようで、軽く頷いていた。
俺も、それに軽くうなずき、静かにヒグラシの手を握って薄暗い階段を上った。

出口で後片付けを始めていた楽団のスタッフの女性に、簡単に事情を説明しヒグラシをソファーに座らせる。
「じゃあヒグラシ、車回してくるから、少し待ってろよ。」
「うん、ありがとうモリヒデ」
少し、後ろ髪を引かれながら、俺は駐車場に向かう。
空気は凛とした冷たさで、青白い月明かりがより一層寒く街を照らしていた。
こんな事なら、車に毛布の1枚でも積んでおけばよかったか。
俺はふっと思い出し、義母さんに携帯をかける。
陣痛が始まった事、このまま病院に向かう事を伝え、荷物の準備をお願いする。

ホールのエントランスに車を回すと、楓と健吾が待ち構えていた。
「来た来た、健吾!佳奈江さん達呼んできて。お兄ちゃんは、これ車に積んで。」
楓は手に毛布を掴んでいた。
「おっ、準備が良いな楓。」
「ホールの医務室で借りて来たの。そんな事より後ろのシートの荷物片付けてよね、お兄ちゃん。朝川さんも付いて行くんだから。」
「そ・・・そうか、朝川が一緒だと何かと助かるかも。」
「私と健吾も、ここの片付けが終わったら病院に向かうけんね。」

肩から毛布を被ったヒグラシが朝川に付き添われて出てきた。
「ゴメンねモリヒデ、大事になっちゃって。」
「そんな事気にしてる場合かよヒグラシ、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。ねえモリヒデ、病院には連絡した?」
「あっ、義母さんには連絡したけど、病院に連絡してないわ。」
「森山くん、いいわ私が運転するから、森山くんは病院に電話して。」
「おっおう、助かるわ朝川さん。」
「少し落ち着きなさいよ森山くん、こんな時は男がしっかり構えてなくちゃあ、妊婦さんや産まれてくる赤ちゃんは、それ以上に大変なんだからね。」
「おっ、おう・・・」
普段はおっとりしている朝川が、珍しく厳しい口調だ。
俺は、スマホを取りだし、病院に電話する。

「・・・はい、じゃあ十分位でそちらにと到着しますので、お願いします。」
スマホをポケットに仕舞い、少し心配そうなヒグラシを見つめる。
「オッケー、お前の担当の先生、丁度当直だった。すぐ、病室手配するってさ。」
「・・・・・・」ヒグラシが無言で俺の手を握り絞める。
「大丈夫か、ヒグラシ?」
コックリ頷くヒグラシは、うっすら脂汗をかいていた。
「もう少しだから、もう少しだからな。」そう言って手を握ってやる事しか、俺は出来なかった。
朝川の言う通り、出産と言うのは男の存在なんてちっぽけな物になのかも知れない。

「着いたわよカナカナ。森山くんこのまま玄関横付けで良いの?」
「ああ、ストレッチャー準備して待機してくれているらしいから。」
玄関に車が着くと、看護師さんたちが手際よくストレッチャーを付けてくれた。
「森山さん大丈夫?もう病院着いたから、安心だからね。いい、立てる?」
「はい、立てます」弱々しくヒグラシが答える。
「じゃあ、ゆっくり立つわよ。ゆっくり、ゆっくり歩けば良いからね。」
「はいっ・・・あぁ!」
ヒグラシは、その場にしゃがみこんだ。
!?
何かを察した看護師が、少し慌てる。
「破水したみたい。一気にストレッチャーに乗せるわよ。」
看護二人がかりで、ヒグラシを抱き上げストレッチャーに乗せる。
「お父さん、お父さん!」
一瞬周りを見渡した。
「森山くんの事だよ」少し呆れたように朝川が教えてくれた。
「・・・あぁあ、はいはい。」
「出産準備品は用意して有ります?」
・・・産褥シートとか、そう言う奴だよな。
「今、義母さんがこっちに持って来ます。」
「じゃあお父さんは、とりあえず車を駐車場に入れて来て下さい。」
「お母さんは、このまま分娩室に入ります。」
「じゃあ森山くん、私、分娩室の前で待ってるからね」
「うん、頼むわ朝川さん」

俺は駐車場に車を回した。
相変わらず、月明かりが綺麗な夜だった。
クリスマスイブが誕生日になるのかな?
そう言えば、マジで名前を考えなきゃな。
俺は、テンパってる自分を落ち着かせるかの様に自問自答を繰り返す。
歩きながら、もう一度空を見上げる。
気が付いたら、ムーンライトセレナーデを鼻歌で歌っていた。
・・・セレナーデねぇ。
セレナなんて、可愛い名前かもな。
その瞬間、何かが俺の中で弾けた。
・・・あの子、せれなって名前だったなぁ。
俺の意思は固まった。
名前は「せれな」だ。
男の子だったら・・・
いや、絶対女の子が生まれる!そんな気がする。

俺の頭の中で、何か脳の奥底に隠れていた記憶がフラッシュバックの様に甦りスッと消えていった。
ただ、あの女の子が微笑んだのは、ハッキリと分かった。

♪♪♪
スマホが静かな駐車場に鳴り響く。
朝川からだ。
「ちょっと森山くん、何してるの? 早く早く、産まれるみたいで、カナカナが苦しんでるわよ。」
「うん、すぐ行く。」
俺は、スマホをポケットにしまい、走りだした。

※※※くりむぞんより※※※
最後まで読んで下さった皆様、ありがとうございます。
(小夜曲)sérénade編は、パラドックス的要素を含んだストーリーです。
今回の話が、終着点であり始まりでもあるんですよね。

(小夜曲)sérénade編を描いてる途中に思い付いた構想を、8年越しで実現致しました。
当時、8年後までこのサイトが残っているか、話が続いいているか、はたまた自分が生きているか・・・色々、不安要素しか無かったのですが、無事に書き終る事が出来て一安心です。
1つの区切りがついたような気がします。
・・・・・・っと言っても、これからも不定期で更新して行きますが(笑)

これからも、そんな私の気まぐれにお付き合い頂ければと思います。
あっ、話の最後になりますが、メリークリスマス 明日が皆様の素敵なイブとなります様に。
2014/12/23 くりむぞん


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ショート・ショート編
モリヒデ・ヒグラシ編
颯太・朝葉編
洋介・日向編
幸一・真子・美結編
御主人様28号・詩音編
比呂十・美咲編
優ママ編
本田・楓編
android game編
純・カヲル編
瑞穂編
ちょい、言ったー。
僕と彼女の日々
ある高校生の夏休み編【完結】
(小夜曲)sérénade編【完結】
楓・青木先輩編【完結】
本田・沢田編【完結】
2009年収穫祭編【完結】



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未来予想図
毎日、雨、雨、雨・・・気分が滅入ってしましますよね。
仕方ないんですけどね、梅雨なんだから・・・
もちろん、今日も雨です・・・
こんにちは、健吾です。
―――――――――7月6日(日)―――――――――
車のハンドルに体を預け、忙しなく動くワイパーを見つめる。
・・・今まで、お袋の軽を借りて乗り回していましたが、今年のボーナスを頭金に新車を買いました。
「ローンなんか組んでどけすーかね!」って楓は怒ってますが、他人のする事にいちいち口をはさんで貰いたく無いですよね。
だいたい、車が来て一番喜んでいるのはアイツなんですから。
俺の車を何だと思って居るんでしょう!

不意に、窓ガラスをノックされる。

「ゴメン健吾待たせちょって。お母さんが序でに千華屋さん寄ってごせって。今、用意しちょうけん、もうちょっと待っちょって。」

・・・この親子いや、ヒデ兄を含めたこの一家は、俺の事を何と思ってるんだよ!

暫くして、おばさんが風呂敷包みを持って現れた。
「ゴメンね健吾君、私が松舞に下りるつもりだったんだけど、楓が序だからって言うもんだけん」
「あっ、いえ全然大丈夫ですよ、おばさん」

・・・やっぱり、楓の仕業か
悔しい事に、楓のおばさんの前では幼稚園の頃の俺の様に、良い子で居てしまうんだよな。

「じゃあこれ、ガソリンとお昼ご飯代、あんま遅にならんうちに帰えだよ、じゃあ気を付けて行って来うだわ。」
そう言いながら、おばさんは俺に茶封筒を渡してくれた
・・・そう言う事なら、話は別ですよおばさん、何時でも僕をお使い下さい♪

一度松舞に下りてから、雲山のリサイクルショップに着きました(千華屋さんで楓もお小遣い貰ったみたいですが・・・)
僕は、中古のゲームソフト、楓は古着やアクセが目当てです。

ゲームコーナーに向かう途中、ベビー服が目に留まりました。
・・・そう言えば、英兄の所11月予定だったなぁ

「何か有った、健吾?」
楓が後ろを振り返った。
「いや、佳奈絵さんの出産予定11月だったがなって思っちょった。因みに出産祝いって、何贈ればいいかや?」
「そうねぇ、ベビー服とかが無難じゃないの・・・あんたはセンス無いから私が一緒に選んであげえけんね。」
「お前のセンスもイマイチ怪しく無いか?」

そう言いながら、披露宴でのヒデ兄の醜態を思い出していた。
「ちょっと健吾、何ニヤニヤしちょうかね。」
「いや、披露宴でのヒデ兄のあわてぶりを、思い出しちょった」
「あぁ、あれは意外だったがぁ」
「楓は、知っちょたかや?」
「いんや、当日の控室で聞いたに。んで、緑川さんとお兄ちゃんには黙っちょて、驚かすかって事になったに。」
「そら、間違いなくおべるわな。」


堅苦しいスピーチも一段落して、各々楽しくお喋りをしている時の事だった。
突然、式場の照明がうす暗くなり、ヒデ兄にスポットライトが当たった。

「え~ご来場の皆様、今日の良き日にもう一つおめでたい出来事がございます。」
そう、颯太さんがアナウンスすると、来場者がザワザワ騒ぎ始めた。
続いて緑川さんが「え~新婦の佳奈絵さんですが、現在妊娠4か月で11月にはお母さんになられます。つまり、新郎英生君は11月にパパとなります」って、嬉しそうにアナウンスした。
一瞬場内が静まり返ったが、誰からともなく拍手が起こり程なくそれが歓声に変わった。

「えぇっ? ヒグラシマジ?」慌ててビールを溢しそうになりながら、ヒデ兄は佳奈絵さんの方に振り向いた。
はにかみながら小さく頷く佳奈絵さんが、年上とは言え妙に可愛らしかった。
「えっとえっと、役場に申請に行って、病院予約して・・・あっ、社長家族手当の申請お願いします」
「森山ぁ落ち着け、そんな事じゃあ立派な父親に為れないぞ」そう言う社長さんに場内には笑い声が溢れた。


あんな慌てたヒデ兄を見たのは、初めてだったなぁ。
父親になるって、いまいちピンっと来ないんだけど、嬉しいけど大変な事なんでしょうね。

ぼんやりと、俺が赤ん坊を抱き上げてる姿を想像してみた。
想像した風景には、少し心配そうな笑顔の楓が居た。


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新しい物語の始まり
♪♪♪
部屋中に、ヒグラシのスマホの着信音が鳴り響いた。
「も・・・もしもし・・・お母さん?なに?こんなに朝早く・・・」
上半身を起こして話をするヒグラシの横で、俺は捲れ上がった掛け布団を手繰り寄せた。
「ウソ!マジっ・・・うん、分かった。ちょっとぉ、モリヒデ起きなさいよ!」
せっかく手繰り寄せた掛け布団を、ヒグラシが撥ね退けた。

松舞の朝方は、まだまだ寒いです。
おはようございます、モリヒデです。
―――――――――5月25日(日)―――――――――
「もう、10時回っちょうがね、モリヒデ!」
「うぉっ、マジ?」
俺は慌てて、枕元のスマホを手に取った。

今日は午前中、ご近所にあいさつ回りに行く予定でした。
・・・実は、昨日ヒグラシとの結婚式でした。
これで、自他ともに認める夫婦となりました・・・実感はないんですが。

いや~、結婚式って飲んで騒いでって簡単に考えてたんですが、緊張しちゃって疲れ果てました。
次は結婚式はしないぞ・・・おっと、そんな事言っちゃいけませんよね(笑)
人前式だったし、そんな盛大な式したわけじゃないんですけどね。
呼んだのは、お互いの親戚と極々親しい友人数名、そして夫々の職場から社長と上司と2名づつ位です。

おっと、そんな悠長に考えてる時間はないですね、急いで支度をしなければ。

・・・

「お~い、ヒグラシ~準備できたかぁ?」
「ちょっと待って、ワンピースのチャックがぁ・・・」
「ったく、相変わらずトロいなぁ」
俺は、そう言いながらヒグラシの背中に回りワンピースのチャックを静かに上げた。
「お前・・・腹出て来たな・・・」
ちょっと剥れ顔のヒグラシが振り返った。

「・・・・ちょ、ちょっと何?そのネクタイ・・・ヨレヨレじゃないのよ!」
「あっ、適当にクローゼットから引っ張り出したから・・」
「んもう~、相変わらず私がチェックしないといけないんだから・・・しっかりしてよねパパ」
そう言って微笑むヒグラシを見て、俺も一緒に笑ってた。


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言えなかった一言
それは、去年のクリスマスイブの前日、天皇誕生日の23日の話、ヒグラシの奴は、雲山で真昼間からクリスマス女子会だった。
お昼前に雲山駅まで送って、夕方また雲山駅に迎えに行くと言う、完全なる奴隷状態。
一旦、松舞に帰るって選択肢も無い訳ではないけど、峠越えをする事を考えると、こっちで時間を潰した方が楽なので、適当に雲山の街をぶらついていた。
こんばんは、お久しぶりですモリヒデこと、森山英生です。
―――――――――3月16日(日)―――――――――
雲山の街は、クリスマス一色でした。
きっと全国的に、クリスマスカラー一色なんでしょうね。

そう言えば、ヒグラシへのクリスマスプレゼント、まだ決めかねていたなぁって思い、雲山で一番大きなショッピングセンターに寄りました。
エントランスの横の、花屋の前で見た事有る親子が。

「確か、あの人は・・・雲山設計の・・・」
そう、以前松舞川で一緒に、バーベキューした木下さんだった。
って事は、抱いてる子供は確か・・・美結ちゃんだったっけ?
いや、バーベキュー時点で、保育所だったから、それはあり得ないなぁ・・・
挨拶しようかどうしようか、少し躊躇していると店内から、これまた見覚えある顔の女性が・・・
奥さんだった。
そして嬉しそうに、花の鉢を抱えた女の子が・・・美結ちゃんだった。
って言う事は、木下さんが抱いてるのは下のお子さん?
二人目が生まれたんですね。

嬉しそうな笑顔で話す、木下さんと奥さんを見ていたら、何だか邪魔しちゃいけない様な気分になって、敢えて挨拶はしなかった。

「幸せそうだったなぁ」
気が付くと、俺はボソッと呟いていた。
バーベキュー大会からでも、気が付いたら3年は経っていた。
周りの人間は、確実に幸せになって行っているのに、俺達は相変わらず子供っぽいよなぁ。
颯太も、実はこっそり結婚資金を貯め始めているらしい、社会人先輩の俺なんて相変わらずのその日暮らしに近い状態だしな。
「そろそろ、俺も年貢の納め時かな?」なんて思い、苦笑いしてしまった。
出会った頃は、あんなに仲の悪かったヒグラシとの生活を、いつの頃からか真剣に描く様になっていたんですよね。

♪♪♪
ポケットの中の、スマホがメール着信を告げた。

『モリヒデ、ごめん一人急用が出来ちゃって、お開きになっちゃった。3時頃、雲山駅来れる?』
マジかよ、まだプレゼント買ってないのによぉ
焦った俺は、服飾コーナーに向かい、候補の一つだった手袋を手にした。
もう一つの候補だったマフラーは、ちょっぴり予算オーバーだった。
店員さんに、頼み込んでラッピング包装だけは、豪華めにしてもらった。
慣れた手付きでシュルルとリボンをかける店員の仕草を、ボ~ッと眺めながらチョッピリ不甲斐ない自分を悔いてしまった。
こんなんじゃあ、結婚式どころの話じゃないよなぁ。


「ワリイ、遅くなった」
俺は助手席のドアを開けながら、ヒグラシに謝った。
「ううん、こっちこそゴメンね。幸恵がね、憧れの先輩から急に映画の誘いが入っちゃって。」
「ほぉ~、ユキちゃんも遂に腐女子卒業か?」
「幸恵は、別に腐女子じゃないわよ、まぁ結構なアニオタだけどね。それよりさぁ、時間が有る事だしどこか寄り道して帰らない?」
「う~んそうだな・・・でもまぁ、時間が時間だし適当に流すか?」
「そうだね、お任せする。」
お任せが一番面倒なんだよな、まぁ取り敢えず疲れた時帰りやすい様に西にでも向かおう。

「どこ行っちょった?」
「ん~適当にブラブラしちょった・・・そげ言やぁあ雲山設計の木下一家を、イオンで見かけたわ。」
「木下さんって、日向さんの友達の?」
「そうそう美結ちゃん一家。弟が生まれちょったわ。」
「ふ~ん、挨拶した?」
「えんや、ほがほがしちょったら、おらん様になったわ。」
「そげか。んでどぎゃん感じだった?」
「どぎゃんて、何がや?」
「幸せそうだったかね?」
「おう、木下さん子供抱いてニコニコしちょったずぇ。奥さんも美結ちゃんと楽しそうに手繋いどったし」
「そげかそげか。」

ふっと俺は、目の前の点滅信号を右折した。
「か、松崎行く道じゃないかいね?」
「あげだず、松崎海岸行ってみっか。」
「寒ないだあか?」
「そげに前通だけだけん。寒かったら、俺のコート着いだわや。」
「あんたのコート、汗臭いがね」
「まぁ、好きにす~だわや。」

次のT字路を右に曲がれば、松崎海岸です。
「うわ~やっぱり寒いわねぇ」
ハア~ァっと、手に息を吹きかけるヒグラシ。
「あっ、そげだわ」俺は、手袋を買っていたのを思い出し、車のトランクに隠しておいたプレゼントを取り出す。
「ほい、これ、クリスマスプレゼント。開けてみ~だわ。」
「あっ、ありがとうモリヒデ。ゴメン、私、明日渡すつもりだったけん、家に置いちょうわ。」
「俺も明日渡すつもりだったけど、『今でしょ』的なプレゼントだけん。」

ラッピングのリボンを解き、中を覗き込んだヒグラシが顔を上げ、ニッコリ微笑んだ。
「か、確かに『今でしょ』だわな。明日貰っちょったら、嬉しさ半減だったがね」
嬉しそうに手袋をはめ、空にかざして小躍りするヒグラシ。

その姿が、何だか凄く愛おしくって
「なあヒグラシ、こおから毎年クリスマスに手袋買ってや~けん、皺くちゃの手になっても、皺くちゃの手袋買ってや~けん、受け取ってごすかや?」
思わず、ず~っと言えんかった一言を口にしていた。

少しむくれながら、「皺くちゃの手袋は要らんわね。何だね、そ~はプロポーズのつも~かね?」って、ヒグラシが微笑んだ。
「うん」小さく頷く俺に、姿勢を正すヒグラシ。
「やっと、言ってごいたね。待ちょったけんね、その言葉。きっと、初めてここであんたと手を繋いだときから・・・」
急に俺は照れ臭くなり、フリースのポケットに手を突っ込み、黒くうねる波を見つめた。
「私の返事は、当の昔に決まっちょたけんね。・・・毎年、手袋貰っちゃあけん、幸せにしてごしないや」
ヒグラシは右手の手袋を外し、俺の目の前に突き出した。
「ど~せ、あんたの事だけん、指輪なんか準備しちょらんでしょ?」
うっ、確かに図星だった。
「このラッピングのリボン、指に結んでモリヒデ」
上目使いではにかむヒグラシに、ちょっぴりドキドキしながら、俺はぎこちなくヒグラシの左手の薬指にリボンを結び付けた。

「ありがとう、大切にするけんね」
そう言いながら、ポケットに手を入れ俺の手を強く握った。
「・・・しかし貰っちゃあけんって、相変わらずヒグラシらしい上から目線だな。」俺は、そう言いながら、ヒグラシの手を強く握り返した。

「ちょっとぉモリヒデぇ、何ニヤニヤしちょうかね」
風呂上り、ハンドクリームを塗っているヒグラシを見ていたら、ふっとプロポーズした時の事を思い出していた俺だった。
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五月に向けて
「あっ、動いた♪」
「うん、俺も解った。って言うか、これってエイリアンとかじゃないですよね?」
私のお腹に耳を当てていた、比呂斗さんがびっくりした顔で話し掛けて来ました。
こんばんわ、お久しぶりですね錦織美咲改め小村美咲です。
―――――――――3月15日(土)―――――――――
「比呂斗さん、実の子に何て事言うんですかぁ」
「だって今、お腹ボコボコって動きましたよね」
「うん、足をジタバタさせた感じでしたね。」
「痛くないです?」
「たまに苦しくなりますよ。あっ、また動いた」

結婚三年目、私達も新しい命を授かりました。
予定では5月に、私もお母さんになります。

「ところで比呂斗さん、名前決まりました?」
「いや、まだなんですよ。候補は幾つか有りますけどね。」
そう言いながら、チェストの上のタブレットの画面をタップしています。
「女の子なら、青葉か緑、男の子なら、元気か潤なんてどうですか?」
「潤って・・・」
「やっぱり、嫌ですか? 俺的には潤一さん嫌いじゃないから平気なんですが」

潤一・・・覚えていらっしゃいますか、不慮の事故で亡くなった私の昔の彼の名前です。
「お気持ちはありがたいのですが、いつまでも潤一の事を引きずる訳にはいきませんからね。」
私は、テーブルの上のスマートフォンを手に取った。
「実は私も幾つか考えたんですよ、ほら」
比呂斗さんは、私の手からスマートフォンを受けとると、しげしげと画面を眺めました。
「数、多過ぎません?」
「すいません、中々絞りきれなくって」
「あっ、でもこの萌衣(めい)とか、可愛いですね。男の子なら・・・五右衛門って、真面目に考えて下さいよぉ」
「だって、『5』の付く名前って言ったら、真っ先に浮かんじゃって。」

ブルッて、比呂斗さんが身震いをした。
「やっぱ、春になったけど、日中は暖かくても夜は寒いですね。」
「そうですね、コーヒーでも淹れましょうか?」
そう言って立ち上がろうとする私を、比呂斗さんは制し「僕がやりますよ、美咲さんはホットミルクですか?」
「すいません、ありがとうございます、」
元々優しい比呂斗さんですけど、私のお腹が大きくなり始めてからは、一段と優しくなりました。


「はい、お待たせ致しました」
そう言いながら、マグカップを私に手渡す比呂斗さん。
「コーヒー淹れながら考えてたんですけど、『5』にこだわるなら『ゴンザレス』とか、どうでしょう?」
飲みかけたミルクを思わず吹き出しそうになりました。
「さすがに、それはちょっとお・・・それに『ゴンザレス』は、名字なんですよ」
「あっ、そうなんですか?」
すまなそうに、苦笑いする比呂斗さん。
「あっ・・・ほら、お腹の赤ちゃんも怒って暴れてますよ。」
「お~そうかそうか、スマンスマン、お父さんが悪かった悪かった」
そう言いながら、もう一度私のお腹に耳を当てる比呂斗さん。
そんな彼を、微笑ましく見つめながら、「ゴンザレス」の「ゴ」は「五」で良いとして、「ん」って漢字無いから「五座礼子」なら、男の子でも女の子でも、使えるかなって考えてた私
「うおっ・・・今、一段と強く蹴りましたよねぇ」
・・・やっぱり、お腹の赤ちゃんに「ゴンザレス」は不評みたいです・・・

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楓・青木先輩編【完結】
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2009年収穫祭編【完結】


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テーマ:恋愛小説 - ジャンル:小説・文学

それぞれの物語
「ねえ朝ちゃん?」
「朝ちゃんってば!」

「あっゴメンゴメン、考え事してた。」
私は、イタズラっぽくペロッと舌を出した。
こんにちは、巷ではうちの姉が色々とお騒がせしている様ですね、緑川朝葉です。
―――――――――3月8日(土)―――――――――
先ずは、私達の近況です。
私は、JA雲南の松舞支所で金融窓口勤務です。
颯太君は、雲山にアパート借りて事務機関係の営業マンしています。

SH3G0099.jpg今日は、颯太君のアパートでカナカナの披露宴で流すビデオの編集や、飾り物の作成にです。
って言うのは口実で、実は昨日の夜から颯太君のアパートに、お泊まりしています。
「んで、何?颯太君?」
「うん、披露宴で流すDVDだけどさ、もう少しシーンを省かないと時間が足りないんだよね。どれか省けそうなシーン無いかなぁ?」

高校1年の夏の松ケ浜海水浴に始まって、夏の合宿、花火大会に精霊流し・・・あれ?うちのお姉ちゃん達が写ってる、これって伝説?のBBQ大会の写真ね。
どれも懐かしい思い出です。
「精霊流しの部分、少しカットする?」
「OK、それならカット出来る写真が有るわ。そっちのボードはどう?上手くいってる?」
「う~ん、プロポーズシーンの再現が難しいのよねぇ。お姉ちゃんや錦織先生なら、工作とか得意なんだろうけどねぇ」

いつかはあの二人、結婚するんだろうとは思ってましたけど、意外とあっさりそんな日が来ちゃいましたね。
私達は、どうなるんでしょうね?
もしプロポーズされたら、素直に頷く心の準備は出来ていますが、肝心の颯太君の方がそんな考えないのか、気配すら感じません。

♪♪♪
ん?誰からでしょう、颯太君のスマホにメールが届きました。

・・・
「朝ちゃん、健吾からメールで楓ちゃんと雲山に来てるから、何か手伝いましょうかだって」
「楓ちゃんなら工作とか上手そうだよね。健吾君も、プログラマーだから颯太君も助かるんじゃない?」
「確かにそうだな、あいつノートパソコン持ち歩いているだろうしな。」
・・・折角の二人の時間を邪魔されたくはないですけど、背に腹は代えられませんよね。

「とりあえず、ささっと部屋片づけちゃおうか」
気が付いたらリビング中が、写真やDVDで散らかっていました。
「そうだな、とりあえずあいつらの作業スペース確保しないとな。」
そう言いながら颯太君は、ゆっくり立ち上がりDVDのケースを集め始めました。

そのちょっぴり猫背の背中を見ていたら、意味もなく幸せな気分になってきました。
私達だって、あの夏休みからず~っと一緒に過ごして来たんですもんね。
カナカナ達はカナカナ達、私達は私達でそれぞれの時間を歩めば良いんですよね。
ちょっぴり、カナカナの結婚には刺激されましたが、今は未だこのままの生活でも良いかなって思います。

「・・・ほらぁ、朝ちゃんもボ~ッとしてないで、写真片づけなよぉ」
そう笑う颯太君に「あっ、ゴメンゴメン」って言いながら、微笑み返すいつもの私がいた。

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ちょい、言ったー。
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楓・青木先輩編【完結】
本田・沢田編【完結】
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